
はじめに|トラック適正化二法は、運送経営をどう変える?
トラック運送業界では、燃料費や人件費の上昇、ドライバー不足、長時間労働の是正など、事業経営を取り巻く環境が大きく変化しています。
一方、運送会社が安定した経営を続けるためには、必要な費用を適切に運賃・料金へ反映し、法令を遵守しながら、安全な輸送サービスを提供できる体制が欠かせません。
こうした課題に対応するため、2025年6月に「トラック適正化二法」が成立・公布されました。
この法改正では、事業許可の更新制度や適正原価に関する規制が導入されるほか、多重下請構造の是正、違法な白トラックの利用に対する規制などが進められます。
つまり、今回の法改正は、単に新しいルールが増えるという話ではありません。
運送会社がどのような取引を行い、どのような収益構造で、どのような管理体制を整えて事業を継続していくのか。
その経営のあり方に関わる制度改革といえます。
今回は、トラック適正化二法の基本的な内容から、運送会社への影響、今後の準備、経営上のリスクまで、実務に役立つポイントをご紹介します。
この記事でわかること
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トラック適正化二法の目的と主な改正内容
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事業許可の更新制度で変わること
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適正原価と運賃・料金の関係
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元請・下請関係や運送契約への影響
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法改正に伴う経営リスク
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今から確認しておきたい実務上のポイント
01|トラック適正化二法とは?

トラック適正化二法とは、2025年6月11日に公布された、次の2つの法律の総称です。
① 貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和7年法律第60号)
トラック運送事業の許可制度、適正原価、取引構造などに関する規定を整備する法律です。
② 貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律(令和7年法律第61号)
トラック運送事業の適正化を推進するため、国の基本方針や必要な体制整備などについて定める法律です。
これらの法律は、トラックドライバーの適切な賃金の確保や社会的・経済的地位の向上、運送業界の質の向上などを通じて、持続可能な物流を実現することを目的としています。
主な改正内容
運送会社に関係する主な改正事項は、次のとおりです。
2026年4月1日から施行されている事項
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違法な白トラの利用に係る荷主等への規制
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運送委託の次数を2次までに制限する努力義務
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貨物利用運送事業者への書面交付義務等の拡大
今後施行される事項
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トラック運送事業の許可更新制度
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国土交通大臣が定める適正原価を下回る運賃・料金の制限
後者の2つは、2025年6月11日の公布から3年以内に施行されることとされています。
なお、具体的な施行日や運用の詳細については、今後の政省令や告示などを確認する必要があります。
今回の法改正を理解するうえでは、既に施行されている制度と、今後施行される制度を区別することが重要です。
02|事業許可の更新制で何が変わる?

今回の法改正で、運送会社の経営に大きな影響を与えると考えられるのが、事業許可の更新制度です。
現在、一般貨物自動車運送事業の許可には、原則として定期的な更新制度がありません。
しかし、今回の改正により、事業許可を一定期間ごとに更新する仕組みが導入されます。
許可を取得すれば、そのまま継続できる時代から
従来は、事業許可を取得した後、法令違反などによる許可取消し等がなければ、原則として許可を維持することができました。
これに対して更新制度では、許可の継続にあたり、更新基準への適合が審査されることになります。
更新制度の導入によって、事業を継続するための管理体制が、これまで以上に重要になると考えられます。
どのようなことが重要になる?
具体的な更新審査の詳細は、今後の制度整備を確認する必要があります。
ただし、運送会社が現在から取り組むべき基本事項は変わりません。
例えば、次のような管理体制です。
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運行管理や整備管理が適切に行われているか
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点呼や運転者教育など、安全管理上の義務を履行しているか
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労働時間や賃金など、労務管理が適切に行われているか
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必要な人員・車両・設備を確保できているか
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事業を継続するための財務・経営基盤を整えているか
これらがすべて、そのまま独立した更新審査項目になると確定しているわけではありません。
しかし、日頃から法令を遵守し、事業運営の実態を適切に管理しておくことは、今後の制度に備えるうえでも重要です。
事業許可は、取得することだけでなく、継続して維持できる経営体制を整えることが求められる方向へ変わろうとしています。
03|適正原価と運賃の関係

運送会社の経営において、もう一つ大きなポイントとなるのが「適正原価」です。
運送事業では、燃料費、人件費、車両費、修繕費、保険料など、さまざまな費用が発生します。
しかし、これらの費用が十分に運賃へ反映されなければ、利益を確保できず、設備投資や賃金改善も難しくなります。
そこで今回の法改正では、国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金を制限する仕組みが導入されます。
適正原価とは?
適正原価は、トラック運送事業を適正に運営するために必要な原価について、国が基準を定める制度です。
運送会社が自ら運送する場合だけでなく、他の事業者に運送を委託する場合にも関係する規制が設けられます。
その目的は、必要な運送費用を適切に確保し、ドライバーの処遇改善や安全な輸送体制の維持につなげることにあります。
「標準的な運賃」とは何が違う?
これまで、運送会社の運賃交渉では、国土交通省が告示する「標準的な運賃」が参考とされてきました。
標準的な運賃は、運送事業者が法令を遵守しながら持続的に事業を運営するための運賃水準として示されているものです。
一方、今回導入される適正原価は、一定の原価を下回る運賃・料金を制限する制度であり、従来の標準的な運賃とは法的な位置づけが異なります。
適正原価制度の施行に伴い、標準的な運賃の制度は廃止されることとされています。
ただし、適正原価の具体的な水準や算定方法などは、今後の制度設計を確認する必要があります。
今からできる準備とは?
運送会社が今から取り組みたいのは、自社の原価を正確に把握することです。
例えば、次のような費用を整理します。
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ドライバーの賃金や法定福利費
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燃料費、高速道路料金
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車両購入費、リース料、減価償却費
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車両整備費、修繕費、保険料
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荷待ち・荷役に伴う人件費
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管理部門の人件費や一般管理費
そして、車両別、運行別、取引先別など、自社に適した単位で収支を把握することが重要です。
適正原価制度への対応は、単に運賃を引き上げることではなく、自社の原価と収益構造を正しく理解することから始まります。
04|元請・下請関係はどう変わる?

トラック適正化二法では、多重下請構造の是正も重要なテーマとなっています。
運送業界では、荷主から運送を引き受けた会社が別の運送会社へ委託し、さらに別の会社へ再委託する取引が行われることがあります。
こうした取引が多段階になると、実際に運送を行う会社に十分な運賃が届きにくくなることが懸念されています。
委託次数は原則2次までを目指す
2026年4月1日から、貨物自動車運送事業者および貨物利用運送事業者には、対象となる運送委託について、委託段階を2次までに制限する努力義務が課されています。
例えば、次のような取引構造です。
真荷主 → 元請事業者 → 1次委託事業者 → 2次委託事業者
この範囲に収めるよう努めることが求められます。
ただし、現時点では努力義務であり、3次以降の委託が一律に禁止されたわけではありません。
この違いは、制度を正しく理解するうえで重要です。
貨物利用運送事業者にも義務が拡大
2026年4月1日からは、貨物利用運送事業者についても、運送契約に関する書面交付義務などが拡大されています。
具体的には、対象となる取引について、荷主との書面交付や委託先への書面交付などが必要になります。
また、元請となる貨物利用運送事業者には、実運送体制管理簿の作成義務も課されます。
一定規模を超える貨物利用運送事業者については、運送利用管理規程の作成や運送利用管理者の選任も必要です。
違法な白トラの利用にも注意
今回の改正では、許可を受けずに有償で貨物運送を行う、いわゆる違法な白トラを利用する荷主等に対する規制も強化されています。
荷主等が違法な白トラ事業者に運送を委託した場合、新たに処罰の対象となる制度が2026年4月1日から施行されています。
なお、白ナンバー車両による運送がすべて違法というわけではありません。問題となるのは、必要な許可を受けずに有償で他人の貨物を運送する行為などです。
運送会社としては、自社の委託先が適法に事業を行っているか、運送の実態を把握できているかを確認することが大切です。
05|法改正で想定される経営リスク

トラック適正化二法は、運送会社にとって経営環境を改善する機会となる一方、対応が不十分な場合には新たなリスクにつながる可能性があります。
主な経営リスクを整理してみましょう。
① 事業継続に関するリスク
許可更新制度の導入により、更新基準を満たせない場合には、事業継続に影響が生じる可能性があります。
具体的な審査基準や経過措置については、今後の制度整備を確認する必要があります。
② 運賃・収益に関するリスク
自社の運送原価を正確に把握できていない場合、適正原価制度への対応や運賃交渉が難しくなるおそれがあります。
また、取引先ごとの採算を把握していなければ、不採算取引の改善が進まない可能性があります。
③ 取引管理に関するリスク
委託次数や実運送事業者を把握できていない場合、取引構造の見直しや実運送体制管理簿の作成などに支障が生じる可能性があります。
運送契約の書面交付についても、対象となる取引を正しく把握する必要があります。
④ 労務管理に関するリスク
適正原価制度が目指す重要な目的の一つは、ドライバーの適切な賃金の確保です。
しかし、運送会社の内部で賃金制度や労働時間の管理が適切に行われていなければ、運賃収入が改善しても、労働者の処遇改善につながらない可能性があります。
また、未払賃金や長時間労働などの問題を抱えている場合には、別途、労働関係法令に基づくリスクが存在します。
⑤ 安全管理・法令遵守に関するリスク
点呼、運行管理、車両管理、運転者教育などに不備がある場合には、従来から行政処分等の対象となる可能性があります。
今回の法改正によって、これらの違反すべてに新しい処分が設けられるという意味ではありません。
しかし、許可更新制度が導入されることを踏まえれば、日常的な法令遵守体制の重要性は、さらに高まると考えられます。
今回の法改正を機に、運賃・取引・労務・安全管理を個別に考えるのではなく、経営全体の課題として整理することが重要です。
06|自社で確認しておきたいこと

トラック適正化二法への対応に向けて、自社の現状を確認してみましょう。
トラック適正化二法・実務セルフチェック
□ 2026年4月1日から施行された改正内容を把握している
□ 自社の運送委託先と再委託の状況を把握している
□ 委託次数を2次までに制限する努力義務について理解している
□ 運送契約に関する書面交付義務の対象と対応状況を確認している
□ 実運送体制管理簿の作成義務の対象となる取引を把握している
□ 委託先が必要な事業許可等を有しているか確認している
□ 自社の車両別・運行別・取引先別の原価を把握している
□ 不採算取引や原価上昇に対応するための運賃交渉を行っている
□ ドライバーの賃金や労働時間を適切に管理している
□ 点呼、運行管理、整備管理、運転者教育などの法令遵守状況を確認している
□ 許可更新制度に関する最新情報を継続的に確認している
□ 適正原価制度の具体化に備え、必要な情報を整理している
いかがでしょうか。
チェックが付かなかった項目があれば、まずは現在の管理方法や取引実態を確認してみましょう。
特に、既に施行されている書面交付義務や委託次数に関する対応については、制度の対象となるかを確認することが必要です。
一方、許可更新制度や適正原価制度については、今後の制度設計を確認しながら、自社の管理体制や原価管理を見直していくことが重要です。
すべてを一度に変更する必要はありません。
まずは現状を把握し、優先順位を付けて改善することが、無理のない制度対応につながります。
07|制度改正に役立つ公式情報源
トラック適正化二法の内容を確認する際には、国土交通省などが公表する一次情報を活用しましょう。
① 国土交通省|トラック適正化二法について
今回の法改正の概要、施行日、法律・政省令、リーフレット、Q&Aなどを確認できます。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html
② 国土交通省|改正貨物自動車運送事業法(2025年4月1日施行)について
運送契約の書面交付義務や実運送体制管理簿など、今回の法改正と関連する既存制度について確認できます。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html
③ 国土交通省|トラック適正化二法に関するQ&A
2026年4月1日施行分の具体的な取扱いについて確認できます。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001993961.pdf
④ 厚生労働省|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
運送会社や荷主に向けた労働時間改善、運賃適正化などの関連情報を確認できます。
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/shipping
⑤ 全日本トラック協会|公式ホームページ
法改正に関する周知情報や、運送事業者向けの実務資料などを確認する際に役立ちます。
法令や制度は、施行日や経過措置、事業者の区分などによって適用関係が異なる場合があります。
特に、許可更新制度や適正原価制度については、今後公表される政省令、告示、通達などの最新情報を確認することが重要です。
08|法改正を経営改善の契機に
トラック適正化二法は、運送会社に新たな義務や対応を求める制度改革です。
しかし、その目的は規制を強化することだけではありません。
適正な運賃・料金を確保し、ドライバーの処遇を改善し、法令を遵守する運送会社が安定して事業を継続できる環境を整えることにあります。
ここで重要なのは、法改正への対応を単なる書類整備や手続きの問題として捉えないことです。
例えば、自社の原価を正確に把握することは、適正原価制度への準備であると同時に、利益率の改善や取引先との交渉にも役立ちます。
また、運行管理や労務管理を見直すことは、許可更新制度への備えだけでなく、事故や未払賃金などの経営リスクを低減することにもつながります。
さらに、元請・下請関係を整理することは、法令への対応にとどまらず、取引の透明性や実運送事業者との信頼関係を高める機会にもなります。
株式会社ブリックスでは、運送会社の事業経営を支えるうえで、法令への適合状況を把握することと、経営上のリスクを可視化することの両方が重要だと考えています。
法令違反の有無を確認するだけではなく、なぜその問題が発生しているのか、どのような管理体制が必要なのかを整理し、継続的な改善につなげることが大切です。
法令遵守は、事業を継続するための基盤です。そして、適正な収益の確保は、その基盤を維持し、発展させるための条件です。
トラック適正化二法を、単なる規制対応ではなく、自社の経営を見直す契機として捉えてみてはいかがでしょうか。
株式会社ブリックスは、これからも運送事業者の皆さまが変化する法令や事業環境に対応し、より良い経営を実現するために役立つ情報をお届けしてまいります。
株式会社ブリックス
運送経営の未来を切り開く羅針盤
複雑な法令や変化する事業環境の中で、運送会社が自ら進む方向を見定め、より良い経営を実現するために。
ブリックスは、専門的な知見と実務に役立つ情報をお届けします。
※本記事は2026年11月時点で公表されている法令・制度を前提とした一般的な解説です。
今後施行される制度については、政省令・告示等により具体的な取扱いが定められる場合があります。
実際の対応にあたっては、国土交通省等が公表する最新情報をご確認ください。
